異業種からデータサイエンティスト:未経験者が知っておくべきデータ収集・前処理の基礎
異業種・異職種からデータサイエンティストを目指す皆さん、こんにちは。
「データサイエンティスト」と聞くと、高度な機械学習モデルを構築したり、複雑な数式を使って分析したりするイメージをお持ちかもしれません。もちろんそれも重要な仕事の一部です。しかし、データサイエンティストの仕事時間の多くは、実は「データ収集」と「データ前処理」という地味な作業に費やされていることをご存知でしょうか。
今回の記事では、この「データ収集・前処理」に焦点を当て、なぜこれがデータサイエンティストにとって不可欠なスキルなのか、具体的にどのような作業が含まれるのか、そして未経験者がどのようにこのスキルを習得していけば良いのかを分かりやすく解説します。
データサイエンティストの仕事の隠れた主戦場:データ収集・前処理とは?
データサイエンティストの仕事は、ビジネス上の課題をデータを使って解決することです。そのためには、まず課題解決に必要なデータを用意する必要があります。この「データを集めて、分析や機械学習に使える形に整える」一連の作業が、データ収集・前処理です。
例えるなら、料理を作る前の準備のようなものです。どんなに素晴らしいレシピ(分析手法)があっても、材料(データ)が汚れていたり、足りなかったり、バラバラだったりしたら、美味しい料理(分析結果やモデル)は作れません。良い材料を集め、丁寧に下ごしらえをすることが、美味しい料理を作るための最初の、そして最も重要なステップです。
データサイエンスにおいても同様に、データの質が分析結果の質を大きく左右します。不適切なデータで分析を行っても、誤った結論を導いてしまうリスクが高まります。だからこそ、データ収集・前処理は非常に重要視されているのです。
具体的にどんな作業をするの?データ収集・前処理の種類
データ収集・前処理には、様々な作業が含まれます。ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。
1. データ収集
- データベースからの抽出: 企業が持つ顧客データや販売データなど、データベースに蓄積された情報を取り出します。SQLという言語を使うことが多いです。
- ファイルからの読み込み: CSVファイルやExcelファイル、JSONファイルなど、様々な形式のデータファイルを読み込みます。Pythonなどのプログラミング言語を使います。
- Webからの収集: ウェブサイト上の公開されている情報(例: 公共機関が公開する統計データ、価格情報など)を自動的に収集します。これは「Webスクレイピング」と呼ばれ、Pythonなどを使います。
- APIの利用: サービス提供者(例: SNS、広告プラットフォーム)が公開するAPIを使ってデータを取得します。
未経験の方にとっては、まずCSVやExcelといった身近なファイルをプログラムで読み込むことから始めるのがおすすめです。
2. データ前処理(クリーニング・加工)
収集したデータは、そのままでは使えないことがほとんどです。様々な「不備」を修正し、「使いやすい形」に加工する必要があります。
- 欠損値の処理: データの一部が「歯抜け」になっている状態(欠損値)をどうにかします。「不明」とそのままにする、平均値や中央値で埋める、他のデータを参考にして推測する、といった方法があります。欠損値がある行や列を削除することもありますが、大切なデータが失われる可能性もあるため慎重な判断が必要です。
- 外れ値の処理: 他のデータから極端に離れた値(外れ値)をどうするか決めます。入力ミスかもしれませんし、特別な意味を持つ値かもしれません。外れ値が分析結果に大きな影響を与えることもあるため、検出して原因を調査し、場合によっては修正や削除を行います。
- データ型の変換: 数値として扱いたいデータが文字列になっていたり、日付の表示形式がバラバラだったりすることがあります。分析ツールやプログラミング言語が認識できる適切なデータ型に変換します。
- 重複データの削除: 全く同じ行や、特定の列の値が重複している行を削除します。同じデータが複数存在すると、集計や分析が歪んでしまいます。
- データの結合・分割: 複数のデータソースから集めたデータを一つにまとめたり(結合)、一つの大きなデータを分析しやすいように分割したりします。
- カテゴリ変数のエンコーディング: 「性別(男性/女性)」や「購入チャネル(Web/店舗/アプリ)」のような文字列で表現されるデータ(カテゴリ変数)を、機械学習アルゴリズムが処理できる数値形式に変換します。例えば、「男性を0、女性を1」のように数値に置き換えるなどです。
- 特徴量エンジニアリングの初歩: 既存のデータから、分析やモデル構築に役立ちそうな新しいデータを作り出す作業です。例えば、購入日時から「午前/午後」「曜日」「祝日かどうか」といった新しい特徴量を作成するなどです。
これらの作業は、地味に思えるかもしれませんが、データサイエンティストの仕事の質を保証する上で非常に重要です。
未経験からデータ収集・前処理スキルを身につけるには?
これらのスキルは、未経験からでも十分に習得可能です。むしろ、多くの未経験者が最初に集中的に取り組むべき領域と言えます。
1. Pythonとpandasの基本を学ぶ
データ前処理の多くの場面で、Python言語と「pandas(パンダス)」というライブラリが使用されます。pandasは、表形式のデータを効率的に処理するための非常に強力なツールです。Excelで日常的に行っているようなデータのフィルタリング、並べ替え、集計、簡単な計算といった操作が、pandasを使えばより大規模なデータに対して、より高速に、より自動的に行えるようになります。
まずはPythonの基本的な文法と、pandasを使ったデータ読み込み、表示、基本的な操作(列の選択、行のフィルタリング、新しい列の追加など)から学び始めましょう。多くのオンライン学習プラットフォームや書籍で、未経験者向けのPython・pandas入門コースが提供されています。
# 簡単なpandasコードの例:CSVファイルを読み込み、先頭5行を表示
import pandas as pd
# sample.csv というファイルを読み込むと仮定
df = pd.read_csv('sample.csv')
# データフレームの先頭5行を表示
print(df.head())
# 特定の列(例えば '売上' という列)の平均値を計算
print(df['売上'].mean())
これはあくまで例示です。実際にコードを実行するにはPython環境とpandasライブラリのインストールが必要です。
2. SQLの基本を学ぶ
企業が持つ多くのデータはデータベースに格納されています。データベースから必要なデータを取り出すためには、SQL(Structured Query Language)という言語が必要です。SQLも基本的な構文は比較的シンプルで、SELECT(データの選択)、FROM(テーブルの指定)、WHERE(条件指定)、GROUP BY(集計)といった主要なコマンドを理解すれば、データの抽出や簡単な集計ができるようになります。
オンラインのSQL学習サイトやデータベース入門の教材で、実際に手を動かしながら学ぶのが効果的です。
3. 簡単なデータセットで手を動かす
PythonやSQLの文法を学んだら、実際に簡単なデータセットを使って前処理の練習をしてみましょう。
- インターネット上には、練習用の無料データセット(Kaggle Datasetsなど)がたくさん公開されています。
- まずは、欠損値や外れ値が意図的に含まれているようなデータセットを探し、それらを処理するコードを書いてみましょう。
- 簡単な集計や、複数のファイルを結合する練習も有効です。
最初はエラーが出たり、思ったようにデータが処理できなかったりするかもしれませんが、試行錯誤する中で、ツールの使い方やデータの性質への理解が深まっていきます。
まとめ:地道な作業がデータサイエンスの質を高める
データ収集・前処理は、一見すると華やかさに欠ける地道な作業かもしれません。しかし、質の高いデータを用意できるかどうかは、その後の分析やモデル構築の成否、ひいてはビジネス課題の解決に直結する最も重要なステップです。
未経験からデータサイエンティストを目指す皆さんにとって、このデータ収集・前処理のスキルは、強力な武器となります。なぜなら、ここでの課題解決能力は、プログラミングや統計学の高度な知識がなくても、論理的な思考力や、地道にデータと向き合う粘り強さが活かせる領域だからです。また、このスキルはデータ分析職だけでなく、データエンジニアやBIエンジニアといった周辺領域でも共通して求められるため、キャリアの選択肢を広げる意味でも非常に価値があります。
まずはPythonとpandas、そしてSQLの基本から学習を始め、簡単なデータセットを使って手を動かす経験を積み重ねてください。これらの基礎スキルは、その後の機械学習や統計モデリングといったより高度な学習に進むための確固たる土台となります。
データサイエンティストへの道は一歩一歩着実に進むことで拓かれます。今回の記事が、皆さんの学習ロードマップの一助となれば幸いです。